「犬の鼻が湿っているのは健康の証(バロメーター)」なんてよく聞きますよね。
犬を飼っていれば知っていて当たり前の知識にもなっているかもしれません。でも、どうしてそうなのかと理由を聞かれたら答えられない人も多いのではないでしょうか?
それゆえに、ふと愛犬の鼻が乾いているのを発見するとなんだか気になってしまう……なんていうことも。
そこで無用な心配をなくすために犬の鼻が乾く原因とその対処法についてお伝えしたいと思います。
そもそも犬の鼻は何のために湿っているの?
結論から言ってしまうと「嗅覚の精度を高めるため」です。
犬の嗅覚は人間の嗅覚の100万倍〜1億倍ともいわれています。そして、犬の鼻にはその嗅覚を高めるしくみがたくさん備わっています。湿っているのはそのひとつです。
まずは「犬の鼻」についての基本的な知識を知るところから始めていきましょう。
犬の鼻(口)部分の名称は「口吻部(こうふんぶ」「鼻口部」「Muzzle(マズル)」などと呼びます。ここでは「鼻口部」という名称で書いていきたいと思います。
犬の「鼻口部」の形と嗅覚
犬の鼻口部の形は犬種によって様々になります。
一般的な形の鼻口部をもった犬種といえば「ラブラドール」「柴犬」「シベリアンハスキー」その他沢山の犬種が挙げられます。
他より長い鼻口部の犬種といえば「ボルゾイ」「イングリッシュ・グレイハウンド」「テリア」などが挙げられます。
この鼻口部の長い犬種は犬の中でもとても嗅覚が鋭いと言われています。犬の鼻の中にはヒダ状の粘膜がありその粘膜でニオイ成分をキャッチしているのですが、鼻口部の長い犬種ではその粘膜の面積が広くなります。
そのためより多くの臭いをキャッチすることができ、また嗅覚もより鋭くなっているのです。
麻薬探知犬や警察犬としても活躍している「シェパード」はやはり鼻口部が長いですね。犬の中でもより嗅覚が鋭いため麻薬や様々なニオイをかぎ分けることが得意です。※1
鼻口部の短い犬種には「(フレンチ)ブルドッグ」「パグ」「シーズー」「マルチーズ」などが挙げられます。
このようにベチャっと押しつぶされたような鼻口部が短い犬種は逆に粘膜の面積が狭いため嗅覚がやや鈍いようです。
また、鼻が潰されていて呼吸がしづらいために鼻息が荒かったり、いびきをかいたりします。
犬の鼻は温度を感知したり、体温調整の役割も果たしていますが鼻口部の短い犬種では、鼻口部が押しつぶされてしまっているためその機能も劣っており体温調整が少しヘタクソです。
このため常に舌を出して温度調整をしていたり、熱中症にかかりやすかったりします。
鼻口部の短い犬が常に舌を出しているのはこのためなんですね。
【補足】※1 麻薬探知犬として「ビーグル」もよく活躍しています。「ビーグル」は鼻口部の長さは一般的ですが耳がたれています。この長い耳があるおかげで空気(の中のニオイ成分)を集めやすく嗅覚がシェパード以上に鋭いとも言われています。このように、一部の犬種では鼻だけではなく耳も使ってニオイを嗅ぎ取っています。
犬の鼻が湿るしくみ
犬の鼻の先端のいつも湿っている部分は「鼻鏡(びきょう)」と呼ばれています。
「鼻鏡」には「鼻紋(びもん)※2」という細かい溝があり、ここに「涙腺(るいせん)」と「外側鼻腺(がいそくびせん)」からの分泌物が水分を与えています。
この分泌物は犬の種類にもよりますが、多い場合には1日あたりペットボトル1本分(500ml)にもなるようです。
それでも足りない場合は鼻をなめることで水分を補っています。犬が時折ペロっと鼻をなめるのはこのためなんですね。
特に夏場は体内に水分が不足しがちですのでこの行動が多くみられるようです。この分泌物(水分)はニオイ成分をキャッチするためのもので、これがあるおかげで犬の嗅覚は優れているということです。
【補足】※2「鼻紋」は人間でいうところの手の指紋のようなもので犬一匹一匹で違います。
ニオイをキャッチするしくみ
犬が臭いをかぎ分けるときのしくみは以下の通りです。
①「鼻鏡」にある「外鼻孔(がいびこう)※3」と呼ばれる鼻の穴から空気(ニオイ成分)を吸い込みます。
②吸い込んだ空気は「鼻腔(びくう)」と呼ばれる空間にためられます。
③「鼻腔」の内側にある「嗅上皮(きゅうじょうひ)※4」と言う粘膜には粘液を分泌する腺があり、粘膜は常に湿っています。そしてこの粘液が空気中のニオイ成分をキャッチします。
④③でキャッチしたニオイ成分は神経細胞によって脳の一部である「嗅球(きゅうきゅう)」へ伝達されます。
⑤「嗅球」が臭いを判別します。(大脳辺縁系で情報を処理)※5
【補足】※3 犬の「外鼻孔」(鼻の穴)をよく見ると左右の端が切れています。これはより空気を取り入れてニオイ成分をキャッチするためです。また、左右の「外鼻孔」の間にある「上唇溝(じょうしんこう)」と呼ばれる縦の溝(線)も水分を溜めるためのものでありニオイ成分をキャッチするのに役立っています。
【補足】※4 犬の「嗅上皮」の表面積は人間のそれに比べて最大で50倍もの大きさになります。そしてその分より多くのニオイ成分を嗅ぎ分けることができるのです。
【補足】※5「嗅球」は脳神経のひとつであり、大脳辺縁系に属しています。
大脳辺縁系は感情や欲求など情動に関わる部分を司っており、外部からの刺激に対して記憶を呼び起こしたり「快」「不快」「恐怖」などの反応をひきおこす部分と結びついています。
そして犬の場合「嗅球」が人間の4倍ほどの大きさになりますのでその分「ニオイ」と「記憶や感情」が密接に結びついていると考えられます。
「たまに来る運送会社の人に吠えまくる(嫌い、怖い))」とか、「隣の家の奥さんが通りかかると喜んで飛び跳ねる(大好き、嬉しい)」とかいうある特定の人への反応はこのニオイと記憶によるものかもしれませんね。
人間でいうところのある特定の香水の香りを嗅ぐとその香水をつけていた人を思い出す……というのと同じですね。
とっても優秀な犬の鼻
上述したように犬の鼻には嗅覚を高めるための仕組みがたくさん備わっています。まとめてみると以下のようになります。
■鼻の穴の端が切れていてより空気(ニオイ成分)を取り込めるようになっている。
■「鼻鏡」や「上唇溝」が分泌物によって湿っていることでニオイ成分をキャッチしやすくなっている。
■「鼻腔」の内側の「嗅上皮」が分泌物によって湿っていることでよりニオイ成分をキャッチしやすくなっている。
■「嗅上皮」や「嗅球」が人間のそれよりも大きく、より沢山のニオイ成分をキャッチし判別できるようになっている。
その他、犬の鼻が湿っていることで左右の鼻の温度差を感知することが出来、それによって風向きを測ることができます。
時代劇などで指をなめて風向きを測るなんてシーンがありますがそれと同じような原理です。
また、人では退化してしまっているフェロモンをかぎ分ける能力も犬の鼻には備わっています。
「ヤコブソン器官」という器管が鼻腔内に存在し、他の犬のフェロモンを嗅ぐことによって情報を受け取ることができます。
フェロモンは全身にあるアポクリン腺から分泌されています。そして、フェロモンを嗅ぐことで「発情期であるか否か」「妊娠中であるか否か」や「年齢」「性別」「健康状態」「感情」までもがわかってしまうのです。
犬や動物がニオイを嗅ぎ合うのはお互いの情報(状態)を知るためだったんですね。
このように、犬の鼻はニオイを嗅ぐことに優れそこから様々な情報をキャッチしているんですね。
それでは、どんな時に犬の鼻は乾くのでしょうか?
犬の鼻が乾くのはどんなとき?
【異常ではない場合】
寝ている時、寝起き
犬が寝ている時というのは鼻が乾いていてもおかしくありません。
寝ている時というのは、情報を収集する必要がないわけですから嗅覚を使う必要もありません。
ニオイ成分を取り入れる必要がないので鼻を湿らせておく必要もないわけです。それで鼻が乾いているということですのでこの場合は何の心配もしなくて大丈夫です。寝起き時もしばらくは鼻が乾いていることがあります。
運動後
激しい運動をしたときも鼻が乾くことがあるようです。沢山の熱を発散し体温も上がっている状態です。
これもまったく異常ではありませんが、運動中や運動後にもこまめに水分を補給をしてあげましょう。
加齢
加齢によって鼻が乾いてしまうことがあるようです。人間も歳をとると肌が乾燥しがちになりますね。
犬も同じで歳をとると肌トラブルがおこったり乾燥しがちになります。よくおこりがちなのが、鼻がカサカサでひび割れてしまうというような症状です。
その場合、病院でクリームを処方してもらうかワセリンなどを塗ってあげるのもいいかもしれません。
とは言っても犬は動物ですのでクリームを嫌がることもあります。ドッグフードを栄養価の高いものにするなどして内側からのケアを試してみましょう。
それほど酷くない場合は自然にまかせましょう。
水分不足
特に夏場など脱水症状を起こしている時は鼻が乾くことがあります。また、暑さ対策のために舌を出して体温を調節をしている時も鼻が乾くということがあるようです。
こまめに水分補給できるように近くにお水を置いておきましょう。もし自分からあまりお水を飲まない場合はペットフードをドライタイプではなくウェットタイプにしてみたり、好きな果物など水分を含んだ食べ物をあげてみましょう。
【病気が原因の場合】
アレルギー
アレルギーによって鼻が乾くこともあるようです。
この場合は鼻が乾くということの他に何らかの異常が見られるはずですので動物病院で診てもらいましょう。
アレルギーと言っても様々ですが、自己免疫性皮膚疾患というような免疫の病気の場合もあれば外部刺激によるものもあります。
外部刺激というのは、散歩の途中で何か刺激のある異物に鼻がふれたという場合や、ごはんをあげる時の容器の化学物質による場合もあります。
これらは、散歩中に異物に触れさせないようにする、化学物質が含まれた容器を使用しない等飼い主さんの配慮によって防げるものです。
普段から注意してみてあげましょう。
角化症
角化症になると鼻がカピカピになり乾いてしまいます。
これは皮膚が正常に作られなくなる病気であり、鼻先だけでなくほかの場所にも症状が現れます。
その場合は動物病院で診てもらいましょう。また、できるだけ刺激の少ないシャンプーを使用することで肌への負担を軽くしてあげましょう。
その他
涙腺の病気に罹っている場合も鼻が乾燥します。
犬の場合は涙腺と鼻が繋がっていて涙腺からの分泌物で鼻が湿っています。そのため、涙腺の病気で分泌物が出なくなってしまうと鼻が乾いてしまうということがあるようです。
その場合は動物病院で診てもらいましょう。
犬の鼻が乾いていると気づいたら、、、
犬の鼻が乾いていたら、まず犬の様子を観察しましょう。
「食欲はあるか?」「便の状態はいつもと変わりないか?」「水は飲んでいるか?」「元気があるか?」「色々なものに興味を示すか?(好奇心があるか)」「目やには酷くないか?」などなど……
また常日頃からマッサージをしながら全身をさわってあげることで身体(肌)の状態もわかりますし異変にも気づきやすくなります。
犬の身体は毛で覆われているため、目で見えているだけでは身体に異常があるかどうかがわからない場合もあります。
身体にさわることによって、「どこにかさぶたがある」とか「ぼこぼこしている」というのが把握できます。
把握しておくことでもしその症状が酷くなったときに獣医さんに診断してもらう時、いつごろから酷くなってきたかなど詳細を伝えることもできるので役に立ちます。
犬もマッサージをされることで副交感神経が刺激されリラックス効果がありますので一石二鳥です。(犬が嫌がる場合はやめましょう)
鼻が乾いていても元気であればほとんどの場合は問題がないと考えられます。
もしおじいちゃん犬、おばあちゃん犬でもないのに長期で鼻が乾いていたらその時は他に病気の症状が出ているはずです。
鼻が乾いていると気づく前に他の症状に気付くということですね。その場合は早めに動物病院で診てもらいましょう。
常日頃から犬の行動をチェックしてあげることで早めに異変に気づいてあげることが出来ます。
大切な家族である犬の健康を守るのは飼い主さんにしか出来ないことです。
責任をもって管理をしてあげましょう。